犬の延命治療と尊厳死について


投稿日:2022年4月15日
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先日、飼育していた犬が死にました

犬種はミニチュアダックスで、17年以上生きました。ミニチュアダックスは他の犬種と比べて長生きで平均寿命は15歳です。その平均寿命より2年以上長生きしたため、人間の年齢に換算すると90歳を超えていたことになります。

今回は犬を長年飼育して気がついたことをまとめて書かせていただきました。


ミニチュアダックスのかかりやすい疾患について

ダックスは他の愛玩犬と同じく、人間の手によって改良された品種です。諸説ありますが、もともとは穴に隠れる獲物を捕るために足を短く改良されたそうです。短い足でちょこまかと歩くさまがどことなくユーモラスで、好奇心旺盛な性格のため人気の犬種です。日本では住環境に適応したミニチュアタイプが一般的です。

生活する環境に合わせた通常の進化ではなく、人間の都合で改良されたため、無理な体型が祟って先天的にかかりやすい疾患があります。特に顕著なのはヘルニアです。
先天的に軟骨が柔らかく負荷に弱い上に、足が短いため上手く振動の吸収ができません。そのため階段の移動などに注意が必要です。フローリングなどの滑りやすい床も腰の負担になるため避けなければなりません。

犬は痛みに強く、弱みを見せないため、目で見て気づいた頃には相当悪化しています。そうならないためにも、元気なうちから対策を心がける必要があります。

腰のヘルニアと聞くと人間でも珍しくない症状のため、軽く見られがちですが、犬のヘルニアは生命の危機に直結します。よくある症状は後ろ足の麻痺です。ひどくなると下半身が麻痺して自力で排泄ができなくなることもあります。

軽度であればステロイド注射で炎症を抑え、安静にして症状が収まるのを待ちます。通常であれば炎症が収まるにつれて改善していきますが、多くの場合で後遺症が残ります。足が麻痺して踏ん張りが効かずにふらついたり、早く走ることができなくなります。

重度の場合は外科手術となります。ただし予後は良いとは言えず、手術が成功したとしても重い後遺症が残ることがあります。最悪、そのまま下半身不随になることもあります。

治療費はステロイド注射による治療で5~10万円。外科手術の場合は20~35万円程かかります。どちらの治療も発症から早ければ早いほど経過が良いため、急に高額な出費について判断を迫られます。


ペットショップでの適切な説明について

我が家の犬も3回ほどヘルニアを発症しました。そのたびにステロイドによる治療を行い、治療後の後遺症も発症するごとに悪化していきました。晩年は老化と相まって後ろ足を引きずるようによろよろと歩くのがやっとの状態でした。

ミニチュアダックスにはこうした先天的なリスクが存在します。しかしペットショップで購入時にそのような説明がされることがありません。現在ではネットショップでの販売も多く行われていますが、商品説明に記載されていることはまずありません。

急な出費への対策としてペットの保険もありますが、月々の掛金は5,000円程度と高額で、治療回数や治療費に上限があるなど、万全とは言えません。とくに初めて犬を飼う人は日々のエサ代は計算できても、保険料まで計算して飼育を開始する人は少数派だと思います。

今回はミニチュアダックスについてでしたが、人気の犬種のなかでも、一定の割合で凶暴性を有する種や、毎日数時間の散歩が推奨される種、といった一般の家庭では飼育するのが困難な犬種も、ショップで普通に販売されています。購入後の「こんなはずじゃなかった」というありがちな失敗も事前に十分な説明を行えば防げるはずです。

購入時にメリットばかりを説明して、デメリットを説明しないというのは近年の商習慣からしても時代遅れです。業界に自浄作用がないのならショップでの販売自体を禁止にしようという欧米での流れも当然の帰結と言えるでしょう。


犬の品種改良について

ご紹介した通り、犬のヘルニアは生死に関わる病気で治療費も高額です。
そのような重大な病気を先天的に抱えさせておいて、これのどこが改良でしょうか。人間の都合で見た目が良くなれば改良、用途に合っていれば改良でしょうか。犬の健康という観点からすれば、明らかに改悪です

ペットショップで目当ての犬種を見つけて「わーかわいい」と子犬を抱きしめる。しかしその裏ではあえて病気の犬を産み出し、規格に適さない犬は間引かれている現実も直視するべきです。それを知らない子犬が人間に愛想を振りまく姿は悲劇としか言いようがありません。

大前提として、生死に関わるような遺伝的特性を持って生まれる可能性のある犬種は販売禁止にすべきです。畜産の業界では、大人になると歩けなくなるブロイラーや、毛を刈らないと死んでしまう羊などが問題視されています。いい加減、我々は利益の追求ばかりを追い求めて動物の苦痛から目をそらすのをやめるべきです。


我が家での治療と闘病生活について

我が家のミニチュアダックスも何度かヘルニアを患ったものの、平均寿命である15歳を越えても元気でした。ただ、やはり老化による衰えなのか、目は白くにごり、耳は聞こえにくくなり、食欲も徐々に落ちていきました。

食欲不振が悪化すると毛玉を吐くときとは違う、黄色い胃液のようなものを吐くようになりました。そうなると、座るとどこかを圧迫して痛みが増すのか、立ったまま頭を下げよだれを出しながらうめきます。

心配になって病院に連れて行くと膵臓の値が悪いとのこと。そこで膵炎に効くという特効薬を点滴してもらいます。この薬は最近開発されたものだそうで良く効くようです。処置から1日も経つと再び食欲が出始め、少しずつですが餌も食べるように改善しました。その後も点滴と検査のために1週間に3回ほど通院して、血液検査の結果も良好ということで、数種類の処方薬をもらい経過を見ることに。

膵炎の場合は脂肪分の多い餌がご法度といことで、おやつに与えていたジャーキーや、添加物の多い歯磨きガムなどは与えるのを止めました。主食も膵炎の犬専用のドライフードを中心に与えるように変えました。

しかし老化による食欲の減退は波のように押し寄せます。そのたびに鳥のささ身や鹿肉など、食欲を刺激するのに良いとされれるものをエサに混ぜるようになりました。食べるまで複数のトッピングを加えて試すため、時には主食よりトッピングのほうが多くなることもありました。

どれだけ工夫をしても食べないことがあります。膵炎や胃腸炎は空腹の状態が良くないため、なんとか食べさせようとしますが、何をどうしても食べません。その状態が長引くと案の定黄色い液体を吐くようになります。「食べないと余計に悪くなる」という強迫観念に追われながら手を変え品を変えエサを与えるという行為が、いつしかストレスに感じるようになりました。

手に負えなくなるほど症状が悪化すればふたたび病院に行き、また血液検査から点滴治療という流れを繰り返します。この流れは年齢を重ねるごとに頻発するようになりました。治療にあたった医師によると膵炎や腸炎、どちらもで同じような症状が出るため、確実な病名はわからないが、原因の特定には外科的なアプローチが必要で、老犬には負担が大きい。それよりも現在効果が出ている処置を継続しましょうとのこと。

そうした対処療法で一進一退を繰り返すさなか、夜中に突然手足をばたつかせて、ウォーン、ウォーンと聞いたこともないような大きな声で遠吠えをはじめました。目も血走り、よだれを垂らしています。落ち着かせるために撫でようと手を出すのですが、その手を噛まれるのではないかと思うほど切羽詰まった様子です。

尋常ならざる様子に、いよいよ最後のときが来たかと覚悟しましたが、夜間の救急病院に電話したところ、すぐに診察に来てくださいとのこと。遠吠えはおそらく30分以上続きましたが、移動中のタクシーでやっと少し収まりました。救急病院で見てもらったところ、おそらく老犬によくある脳の萎縮による痙攣や痴呆による遠吠えでしょうとのこと。老犬になるとそのような症状がよくあるとは知らず、思いもよらないことでした。その後はかかりつけの病院で痙攣止めの薬も処方されることになりました。

しかしこの痙攣止めの薬は量の調整が難しく、1日1錠与えると痙攣が出ない代わりに全く動けなくなってしまいました。そのため1日に半錠に減らしましたが、今度はなんとか動けるようになったものの、たまに痙攣が出てしまいます。良い塩梅を探すうちにも足腰は目に見えて弱っていき、とうとう自力でトイレに移動することが困難になりました。全く動けないわけではないためトイレへの移動を促しますが、ほぼ毎日カーペットやマットに粗相をするため、連日掃除する必要がありました。おむつも試したのですが、痙攣のときにのけぞったり、宙を搔くように足をばたつかせるため、自然と脱げてしまい無駄でした。

結局そのような状態が半年も続き、筋肉はやせ細り寝たきりの状態になりました。痙攣の動作で移動してしまうためダンボールで囲いを作り、床ずれにならないように犬用のベットの上にペットシーツを敷くという形で収まりました。

ここまでくると老化も相まって目も耳もほとんど機能せず、なでても突然なにかされたと思いビクッと驚くだけです。誰かの帰宅を喜ぶこともなければ、餌を与えても口を上下してなんとか飲み込むという状態です。水も自分で飲めないため1日に何度も口のそばに水を持っていきます。

犬にできることと言えば糞尿の際に吠えて教える程度です。その合間にボケと痙攣による遠吠えを繰り返します。世話をする人間にはどちらの理由で吠えているかはわからないので、とりあえず吠えるたびに排泄物がないか調べ、水を与えてみて、なでたり抱き上げたり、場所を変えたり、ひっくり返してみたりと想像できる原因を取り除いてみます。
しかしボケや痙攣の場合は鳴き止むことはありません。ときには何時間も吠え続けることも少なくありませんでした。そんな状態の犬を見て思うのはもはや気の毒、可愛そうという感情だけです。

朝と夜、大量の薬を口に投げ込まれ、遠吠えするだけの毎日。食欲がなくなれば点滴でしのぎ、ただ苦しむ時間を長引かせるための延命治療。犬にとっても、飼育する家族にとっても負担ばかり増えていきます。これ以上、どこまで悪くなるのだろうか。そう思っていたある日、とうとう点滴の効果もなくなり、水すら受け付けなくなって死を迎えました。

この文章を書いている現在も死から1ヶ月も経っていないため、ふとした瞬間に「リビングの温度は大丈夫かな?」「シーツは汚れてないかな?」と考えてしまいます。そのたびに「そうだ。死んだんだった」と思い返します。
悲しいことに、犬と過ごした楽しかった思い出は、病気に追われた毎日で上書きされてしまうようです。たくさんあるはずの楽しかった思い出はまるで遠い過去のようで、昔の写真を見返すことで、なんとか思い出すという状態です。

そうして今、一番に思うのは、一連の治療を受けた犬が幸福だったのかという疑問です。
平均寿命を越えた犬の食欲が減退するのは自然なことです。特効薬とやらで一時的に治療したところで、根本的な原因は老化にある以上、嘔吐しては治療するという苦痛を繰り返すだけです。そのような延命治療をしなければ、おそらく餓死したはずです。そうなれば、ボケや痙攣で寝たきりになり、一日中不安そうに吠え続けるという状態も回避できたはずです。

老化によって食べられなくなったら衰弱して死ぬ。それが自然の摂理です。目の前で愛犬が苦しんでいれば、なんとか治療したいという気持ちも理解できます。しかし老化による死は避けることができません。現代の医療で改善することができなくなるまで生かすということは、同時に限界まで苦しめるというのと同義です。

今思い返してみれば、最後の数カ月はただ薬と点滴と遠吠えを繰り返す日々でした。それでも長生きしてほしいと治療を続けるのは、飼い主のエゴです。自分に置き換えて考えたとき、同じように治療をしてほしいとは全く思えません

どんな状態でも治療して、長生きさせることだけが正解とは限らない」これが今回の体験で私が実感したことです。今はただ、一匹でも多くの犬が無用な苦痛から開放されることを祈るばかりです。


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