比喩でも、哲学的なことでもない。
単純に道で転んだ。
単純な道で転んだ。と言ったほうが正確だ。
その曲がり角には駐車場があり、車が無いと斜めに突っ切って進むとことができる。
今日も駐車場には車がなく「効率を考えればこっちだろ」とすまして歩いていた。
すると散歩中のマルチーズが二匹、道で心地よさげに転がっていた。
しかも後ろ足を上げてペロペロと舐めるセクシーポーズだ。
「あら、かわいい」と思わず目を奪われて歩いていると、
車止めのブロックに足を取られた。
走馬灯というのは本当にあるもので、一瞬時間が停止し、頭は鮮明だった。
よく言われる「中学校の修学旅行も思い出した」といったのは嘘だ。
現実では「ふっ、足が引っかかったとしても、この右足を出せば余裕」と、とっさに判断。
崩れかかる体、傾く風景、「今だ!」右足を前に投げ出した。
が、しかし、ビーチサンダルのような形をしたビルケンシュトックのサンダルは全く踏ん張りが効かず、
満を持して出した右足はサンダルの上で滑るだけだった…。
「このまま倒れれば、頭を打つかもしれない!」
そう頭によぎった。
だが健康のためにジムでトレーニングしている私を舐めてもらっては困る。
とっさに両手を出し、腕立てのような体勢で受け身を取る。
完璧な受け身。「決まった!」と内心ほくそ笑んだ。
ただ、中途半端に出した右足が邪魔して、そのままゴロンと横に転がった…。
手を前につきだしたまま転がったため、ちょうど天を仰ぐポーズだ。
干からびたカエル。そんな格好で止まった。
横目で見るとマルチーズが「何だこいつ」という目で見ている。
犬を散歩していたおばあさんが少し警戒した様子で「段差があるから危ないわよねぇ」と声をかけてきた。
「その犬のせいだよ!」と言いたかったが、冷静になると、どうにも気恥ずかしく
「はあ」としか言えなかった。
このまま道で寝てるわけにもいかない。
すぐに起き上がって「何もなかったよ」「全然平気だよ」といった顔に切り替え歩き出した。
態度は冷静でも頭のなかでは恥ずかしさと興奮でパニック状態。
「こんな豪快に転んだのは、高校生の頃に自転車で溝にはまって倒れた時以来だ…。」
「いや、雨の日に非常階段で滑っておしりを強打して5分くらい動けなかった事もあったな…。」
走馬灯って、危険な体験をした後のほうが見るんだな…。
でも、こんなことって誰でもあるよね。早く忘れてしまおう…。
「失敗は誰にでもある、そこからなにを学ぶかだ」などと聞いたようなことを考えて無理やり納得する。
と、気持ちを切り替えて歩き出したが、犬を散歩している妹に一部始終を見られていた。
イタタタ
どんまい。
サンキュー。